働く人口が減る日本
日本は少子高齢化・生産年齢人口の減少という問題に直面しており、2065年には日本の人口は9000万人を割り、高齢化率38%台になることが見通されております。また、近い未来である2025年には生産年齢人口の減少がさらに加速すると予想されています。人員が減っても、従業員一人一人が本来のパフォーマンスを発揮できるようにすることが、今後の日本経済にとっても重要です。
従業員に十分なパフォーマンスを発揮してもらうためには、病気などによる生産性の低下を防ぐ必要があります。ここで、病気などによる生産性の低下とは、単に不調での欠勤のみをさすわけではなく、不調のまま出勤することで本来のパフォーマンスが発揮できないことでのロスも指します。
後者について補足すると、例えば睡眠時無呼吸での日中の眠気や、うつ病で頭が回らない状態、PMSなどで知られる月経随伴症状や片頭痛などでのパフォーマンス低下での損失などです。ちなみに、出勤はしているのに健康問題で生産性が低下している状態をプレゼンティズム、健康問題での病欠をアブセンティズムといいます。
健康問題のある1人従業員の経済損失?
プレゼンティズムに潜む問題点は?
国内での労働生産性や経済的損失の影響の調査で、従業員一人当たりの年間コストとして、医療費が129,815円、アブセンティズムが57,943円、プレゼンティズムが340,418円という結果が出ました。この結果をみての通り、医療費やアブセンティズムよりも、プレゼンティズムでの経済的な損失がより大きいことがわかります。
このプレゼンティズムは大きく2つの問題点が潜んでいます。
一つ目は、そもそも出勤していることから、周囲の人間が本人の不調に気付きづらく、また症状が目に見えない場合が多い事です。二つ目の問題点に、十分に休息をとらずに不調のまま仕事を継続することで症状が増悪し、重症化してしまうことがあります。プレゼンティズムの原因には、腰痛などの整形外科的疾患も多いですが、うつ病などの精神疾患も大きなウエイトを占めております。
減少する働く世代と増加するメンタル不調者
近年、生産年齢人口での不調者が増えております。メンタルクリニックでも、職場での様々な問題やストレスから精神的な不調をきたす方がたくさん来院されます。
日本の自殺者は年間3万人を下回り、平成25年で27,283人、平成30年で20,840人、令和3年で21,007人と減少傾向です。しかし精神疾患の総患者数は、平成11年で204万人、平成20年で323万人、平成26年で392万人、平成29年で419万人と増加傾向です。
精神科の外来患者数の統計では、15年前の1.7倍になっており、75歳以上の後期高齢者が顕著に増加したと言われます。しかし生産年齢人口において、平成14年では25-34歳で34.9万人、35-44歳で34.2万人、45-54歳で36.8万人、55-64歳で33.8万人でしたが、平成29年では25-34歳で36.2万人、35-44歳で58.2万人、45-54歳で63.9人、55-64歳で47.7万人と生産年齢人口でのいずれの年代も精神科の外来受診患者数は増加しています。
産業医学の見地から大切なこととは
つまり生産年齢人口が低下し人員確保が困難になる中、生産年齢人口の不調者が増えている状況です。このような状況下の中で、一人一人の能力を発揮し本来のパフォーマンスを引き出し、企業や日本を支えてもらうためには、健康問題でのロスを減らすことが必要です。まずは健康問題自体が発生しないように、ストレスチェックや健診などで予防を行うことが最重要です。
しかしそれでも、残念ながらうつなどのため休職となる方が生じてしまうかもしれません。限られた人員を失うこと、これまでのその方に教育した分の労力や、周りのモチベーションへの影響を考えると、そこで退職となってしまうことはやはりもったいないことです。
もしもうつになっても、しっかりと治療を行い、リワークを経て復職しそのまま定着して、その人本来のパフォーマンスを発揮し続けてもらうことが、産業衛生医学の見地からも大切と考えます。
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